武井中心に腐の萌え吐き出しブログ。
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芸術の秋/葉蓮
2011.10.11 Tuesday
オレに絵心はない。
葉の絵は難読だった。
展覧会は高校生の優秀作を集めたもので、入り口に近いものほど静止画や人物画など分かりやすいものだった。
奥に進むにつれ、写実的でなくなる。
人の肌が黄緑色の人物画、器が重力を無視した果実の絵。
正確に言えば違うのかもしれないが現代アートというくくりらしい。
作者の名と作品名、解説が書かれたプレートがついている。
オレには理解できずとも、それぞれに込めた思いもあるのだろう。
ゆるゆると眺めて歩いていた。
葉の絵は、その奥のえらく目立つ場所に飾られていた。
解説のプレートが見当たらない。
作者名と作品名は、絵の下に蛇足であるかのように申し訳なさげについていた。
『恋心』
麻倉 葉
学期の前だった、葉が何度も口ごもってオレに依頼してきたのは。
「絵の練習に、付き合ってくれんか?」
長期休みの前から何かオレを見て口ごもっていたが、そう言う訳だったらしい。
別段オレの生活を圧迫する要求でもなかったので、学校の油絵臭い美術室で放課後を過ごした。
無理なポーズを要求するわけでもないし、じっと動かないで居る訳でもなかった。
他愛もない会話とか、葉の鉛筆の音やブラシの音を聞くに留まっていた。
一度葉の過去作品のファイルを見せてもらった。
古いものは写実的であるのに、最近の物になるにつれ奇っ怪な様相をしている。
過去作の写真ファイルの一枚に、妙にかしこまった様子で絵の隣に立つ葉の姿があった。
額には金のリボンがつけられ、ネクタイをしっかりとしめた葉は照れたような困ったような顔。
その写真は抜き忘れたようで、オレが見ているのに気づくと慌ててファイルを取り返された。
嫌がる葉に聞くと、それは先の展覧会で特別賞を受賞した時のものらしい。
自慢どころか嫌そうな口調で話すことには、それ以来葉の作品は高い評価を受けているらしい。
それは取り立て、玄人好みの、言い換えれば素人には理解の困難な抽象画だった。
「今度の展覧会、これの清書を出していいか?」
オレの前で葉が描くのはデッサンばかりだった。
だからその言葉も、額面通りオレの肖像画を描くものと思っていた。
だが、展覧会が近づき葉がイーゼルにカンバスを立て掛ける頃になると、パレットには到底葉の視界にない色。
オレの姿を模していたカンバスには、謎の球体が描かれている。
これはどの辺りがオレなのか?
聞いても分かるとは思えなかったし、絵を眺めるオレの横で葉が苦笑していたので、オレは葉に描かれるに任せていた。
出来上がり、葉は満足そうな顔でオレに礼を。
つまり、この絵は、オレを見て、描かれた物で。
球体は爆発する直前の様子を捉えたような、逆に暴れるなにかを丸め込んだような、
この配置的にまた葉の作品は高い評価をされているのだろう。
なんの絵かと問われると困る、オレは困る。
オレを展覧会に招いた作者が、視野の端から近づいてきて、それも困る。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
オレを見て、オレを描いて、『恋心』?
写実画なら誰かの代わりのモデルというのもあるだろう、だが展覧会までの間、葉はオレを描き続けて。
それになんだ、歩み寄ってくる葉の照れたような困ったような顔は。
「蓮、」
なんでそんな、緊張したような嬉しそうな声で。
「見たんよな? えっと、」
「オイラ、お前がーー」
パールホワイト葉くんでした。
葉くんは料理、掃除、裁縫なんでもできる器用さんだと思う。
抽象画は好きです、好きの横好き。
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