以下、葉蓮短文。

脈絡も流れもなく唐突に始まって終わる監禁葉蓮。











部屋は一間である。
窓ははめ殺しで、方角のせいか直射日光が入ることはない。
外の様子は知れない、監禁されている彼に、外の情報は、視野はもちろん音でも気配でも求めて与えられはしなかった。
ただ、唯一、
「………」
ドアの向こうから気配がして、蓮は見る物もない部屋で閉じていた瞼を開けた。
扉から入ってきた、監禁せしめる張本人が、ゆるやかな笑顔で入ってきた。
蓮の知りえる情報は彼が持っているそれのみ。
でも、彼は蓮に求めている物を与えてはくれない。
入ってきた扉ですら、ご丁寧に強固な二重扉にされて、情報はおろか、逃亡すらままならない。
「れーん、」
彼の、穏やかな声。
返事をしようと、反応をしようと、思ったような気もするし、何も思わなかったような気もする。
以前は微かな刺激ですら大仰にリアクションを返していたはずなのに、今の蓮は、自分でも理解できないくらい心が動かない。
心が動かないことが、悲しいのか嬉しいのか、分からないくらい心が動かされない。

蓮には、情報も情緒もない、だた事実だけがそこにある。
葉が居なければ蓮は死ぬし、蓮が居なければ葉も死ぬ。
文字通り、葉が世話を焼きにこなければ、蓮はこの部屋で腐っていく。
その逆は、以前、葉がその手で蓮を殺しかけ実現しかけた。
否、それは心中だった。
扱いなれた日本刀、全てくすんだこの部屋で、彼はそれを振りかざし、三度、蓮に切りかかった。
一度腕で受けた蓮は、防衛本能を降して葉に体を曝した。
振り下ろし、なぎ払い、歪な十字を蓮の胴に刻んでから、脇差でもないその刀を葉自身の胴に刺した。
切腹だ。
腹に刀を差したまま床に転がった葉を、眺めていた。
血の足りないせいか痛みからか、けれどそれは恐怖のせいではなく、蓮は意識を手放した。
また目覚めたときに、葉はいつものように笑っていた。
傷口が疼いた、血の匂いが鼻につく。
それは葉からか、己からか。
目覚めたことに感激も憂いもない、それは分かっていたし、葉にも分かっていたことだろう。
あんな傷で殺せるものか、死ねるものか。
葉は結局、蓮を、自分を、殺すこともせず傷をつけたに過ぎない。
それは一蓮托生の宣言であり、婚礼の儀式の様でもあった。
蓮は、心動かされない。

葉が蓮を愛することは、当然とも嫌悪とも感じない、ただそこに事実があるだけ。
逆もまた、蓮には同じだった。
蓮は葉を愛しているし、葉は蓮を愛している。
互いが死ねば諸共、それは一蓮托生であり、死が二人を別つことも許さぬ誓約だった。

「ご飯、持ってきたぞ。」
言う葉の手には、病院の配膳を彷彿とさせるプラスチックの盆とボウル。
力なく座りこむ蓮の傍にしゃがみ込んで、その顔を覗き込む。
無気力に焦点も合わない口も半開きの顔に微笑みかけて、葉はボウルの中をすくったスプーンを蓮に差し出す。
「ほら、あーん」
「……」
元から空いたままの口にスプーンの中身を落とすと、一度下顎にのった食物は蓮の口角から滴った。
「うん？」
持ち込んだタオルで口角と汚れた胸元を拭ってやって、葉はもう一度食事を運ぶが蓮に何も変化はなく、またボウルの中身は同じ軌道をたどった。
「おいしくない？」
「…」
「たべたくない？」
「…」
蓮に反応はない。
ここに閉じ込められた当初は、監禁せしめた葉本人の施しを受けるのも、プライバシーも何もないこの部屋で最終的に葉の前で排泄行為を行うも、とにかく屈辱で拒食した。
葉は盆を置いて、蓮の顎に手を添える。
口に食事を移すと、少し蓮の顎を持ち上げて口を閉じさせる。
「のんで。」
葉に言われるまま、喉が動く。
「いい子な、蓮。」
葉がボウルの中身を掬うため手を離すと、蓮はまた脱力して薄く口を開く。
その口にスプーンを運んで、また顎を上げてやる。
何度も、葉がボウルの中身が無くなるまで食事を手伝ってやる。
「噛めって言ったら、流動食じゃなくても食べれる？」
「…」
食後も、食前も変わりはしない、蓮の反応はない。
薄く開いた口の端から、咀嚼されてもいないボウルの中身だったものが伝った。











無理心中と、虚無蓮のごはんが書きたくて。